単著「生き続ける震災遺構―三陸の人びとの生活史より」発刊(坂口奈央准教授)

震災遺構に対する「恥の場だから解体すべき」とか「船がかわいそう」といった語りを耳にしたことがあるだろうか。その語りは特別な語りなどではなく、何気ない日常会話のなかにあった。語りは三陸の人びとの苦悩や葛藤を含みこみながらも、「生を問い直し」ていく。それは揺らぎながら、葛藤しながら、寄り道をしながら、人々が生きる意味のかけらを集めていく道のりであった。

未曾有の大災害といわれた東日本大震災から14年、復興に向けた議論の中で話題を集めた一つに、震災遺構のあり方を巡る問題がある。三陸の人びとが「防災のために遺したい」、「教訓のため」とするような一般的な意味を震災遺構に見いだしていたならば、上記のような語りが聞かれたり、保存や解体をめぐり地域を二分する議論にまで発展しなかっただろう。人びとの語りには、地域の中で生きてきた経験が紡ぎだす固有の理屈が表れる。

本書は、10年以上にわたる観察と生活史調査から、人びとの葛藤や苦悩の中で揺らぎながら生成していく現実とその土地でこれからも生きていく意味を見いだそうとする人びとの姿を浮き彫りにする。震災復興とは、そして震災遺構とは、誰のため、何のためか。災害が複雑化する今、もう一度その原点を問い直す、復興検証の一冊でもある。

[書評掲載]

朝日新聞 好書好日 2025年4月19日よりネット配信
https://book.asahi.com/article/15704335

日経新聞 書評 2025年4月12日付け
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO87972550R10C25A4MY6000/

産経新聞 書評(2025年3月16日付け)
https://www.sankei.com/article/20250316-Q3R2PXL3YBIUFDMGQ7IQXDPWM4/

共同通信配信記事より全国地方紙にて掲載
公明新聞 文化欄 2025年6月1日